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2009年6月 2日 (火)

憧れの「鶴見」

私が長年、一度は行ってみたいと思いながら、行くことができないでいる場所があった。遠くではない、ごく近くに。

 それは、横浜市鶴見区を走るJR鶴見線の沿線地帯である。京浜東北線の鶴見から出ている電車で、東京湾へ向かう工業地帯を走っている。東京近郊の路線にしてはごく短い、扇町までの10駅の間を往復する電車である(同時に鶴見駅には『海芝浦』行きと『大川行きの』支線も発着している)。先日、たまたま夕方から時間が空いたので、この機会を逃したくないと、思いきって妻と事務所のスタッフをともなって出かけてみた。

 浜松町から京浜東北線に乗ると、平日の夕方6時過ぎだったこともあって、電車は帰宅する会社勤めの人たちや学生たちでぎゅうぎゅう詰めだった。数年ぶりに遭遇したラッシュアワーである。鶴見までは意外と早く、およそ20分で着いた。鶴見線のホームへ移動する。

 やがて満員の鶴見線が着くと、降りてきた乗客はおそらく沿線の工場や会社に勤める人たちなのであろう。反対に乗車したのは私たちと、沿線に暮らしているらしき人たちが数えるほどだった。目的地は鶴見の次の「国道」という駅で、そこにある飲み屋に行きたかったのだが、せっかくだからということで、ちょうどやってきた「海芝浦」行き電車で終点まで行ってみた。

最初わずかにいたお客さんも、一駅二駅過ぎ、工業地帯に近づくにつれて、ついには私たちだけになってしまった。だが、終点の「海芝浦」まで行くと、ここには東芝の工場しかなく、乗り降りできるのも入構証を持った社員に限られているので、急に帰る人たちで満員になる。このホームがまた凄い。海の真ん中に埠頭のように立っているのだ。夜の海の側から眺めた工業地帯の灯りを堪能してから、また「国道」に戻って降りた。

降りてみて、呆然となる。駅は無人。出口に、今は見ることもなくなったボロボロの木製の改札。敗戦直後を思わせる古びた駅舎の下に、木戸を連ねた店が数件あるが、そのどれもがつぶれてしまったらしく、人気がないのだが、改札のはす向かいに飲み屋が1軒だけ、灯りをともしていた。その「昭和」の感じに圧倒される。時どき終戦後を舞台にした映画やドラマのロケにこの駅舎が使われることがあるというが、それもうなずける。

 店の名は、『国道下』。国道駅の下にあるから、『国道下』なのだ。木戸の向こうにうっすらと、5人ほどのお客さんでいっぱいのカウンター席と、ママさんの姿が見える。ガラス越しにうす赤い灯りが洩れて、なんともいい雰囲気である。木戸を開けて、入れるかきいてみたが、「いまは満員だから、30分後にまた来て」と言われる。

 仕方なくガード下を出ると、車が走りすぎる国道16号に出た。しかし、ときどき冷たい風が吹き抜けるほかはほとんど人気がなく、どうすればいいのかと思ってしまう。しばらく探すと、道沿いに灯りをともしている日本料理屋が見えた。入ってみると、蕎麦屋のような造りのいい店だった。そこの小上がりで焼酎を一杯。

 先客は地元勤めの飲み友達らしい中高年の男女が4人ほどいた。きさくに鶴見のお祭りの話などしてくれる。店の壁に小さい薄型のテレビモニターが取り付けてあり、男性の一人が歌いだすと、料理屋がカラオケ屋に早変わりする。

 冠二郎などの自慢の歌に合わせて、突然、お客さんの男女が手に手を取ってゆったりとチークダンスを踊り出した。まるで映画のような光景に唖然としてしまうが、……すばらしい。

 そろそろいいころあいだなと思い、そこを出て、先ほどの『国道下』へ。もう空いていて、みな入ることができた。聞けば、ここらの飲み屋の始まりは早いし、ピーク時間も早いのだという。夕方の4時ごろから飲んでいる人もいるそうだ。「楽しんでってね」と、初対面の先客さんが私たちに声をかけて帰っていった。「以前から一度来てみたかった憧れのお店なんですよ」というと、ママさんが喜んでくれた。

 ふと目についたのは、サントリー・オールド。いわゆる「ダルマ」だが、それをロックで飲むことにする。ダルマなんて、何年ぶりに飲むだろう。懐かしい味わいに感激する。ママさん手作りのおつまみもおいしい。刻んだ山芋や冷奴、千葉から仕入れたという刺身など、ごくふつうの家庭料理だ。ストレートで飾らないママさんや常連のお客さんとの会話を楽しんだ。

 また来ることを約束して、店を出たのは十時少し前だったろうか。いい気持ちで再び鶴見線と京浜東北線で浜松町まで戻った。

 鶴見へはいつか行けたらいいなというぐらいに思っていたが、突然に実現することができた。こんな近くに、こんな懐かしくも驚きの“楽園”があろうとは……。調べたところ、鶴見区内には、知る人ぞ知る「沖縄タウン」があるという。そこには今度、行こうと思っているので、あらためてご紹介するとしよう。

 このブログでは、こうして私、三枝が訪れ、いい刺激をいただいた場所、人、本や音楽など、「これぞイチ押し、おすすめ!」というものを随時、採り上げていくつもりである。読んで興味を持っていただければ幸いだ。

今後とも、よろしくお願いします。

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